裁判関連 » 2009/11/20 口頭弁論要旨(淵脇)

口頭弁論要旨 2009年11月20日

弁護士 淵脇みどり

  1. 社会における価値観の変化
     私は、本件裁判について、2007年、第1回口頭弁論時、本年4月の弁論更新時にそれぞれ口頭での弁論をいたしました。
     さらに、その後の7ヶ月間で原告と、それを支援する多くの国民を取り巻く状況が、劇的に変化しました。 本年の総選挙で、税金が真に国民、住民のために使われていないという怒りが、政府と、行政に対する強い不信となり、総選挙での政権交代が実現しました。
     新政権のもと、今まで「公共的事業」として、大きな行政裁量が認められてきた事業に、政府と国民全員がその合理性を鋭く追求し、違法不当な公金の支出ではないのかどうかを厳しく注目しています。さらに、司法もまた、今まで以上に行政の裁量の合理性について、鋭く審理するようになり、その誤りを断罪する判決が相次ぎました。
  2. 本件訴訟の意義
     私たちの本件訴訟もまた、まさに、原告達がその怒りを先んじて、司法の場で厳正に裁いて頂きたいという思いで提訴したものです。特に本件再開発事業に関する違法性、裁量権の逸脱は極めて重大で、地方自治の本旨である「住民の福祉」を犠牲にし、従来のこの地域の都市計画公園、風致地区、景観重視という都市計画の方向性に逆行して、一企業の開発利潤の追求を最大限許容するものです。
     行政法の専門家である白藤博行教授の意見書にあったように、住民訴訟はまさに国民の参政権の行使の大事な手段です。国民主権の憲法のもとで、その実効性を担保するための、選挙権と並ぶ重大な権利です。従って、住民訴訟についての、国民の期待は国の政治を動かすほど大きなうねりのなかから生まれ出た要求であり、今やその司法の判断について、全国民が注目していると言っても過言ではありません。住民訴訟の対象となる財務会計法規の違法性についてもその本質から、いたずらに狭く限定するべきではなく、本件事業そのものの違法性について踏みこんで判断すべきです。
  3. 岩見証人意見書理論の先見性
     本件の審理の法廷で、都市工学の専門家である、岩見良太郎証人が、都市計画法1条の「公共の福祉」という目的について、具体的に5つの公準を設定し詳細な検討を加えた論証はすばらしい先見性をもった証言でした。従来「広い行政の裁量」の名のもとに、「誰のための福祉か」を問うことのなかった都市計画行政について、司法や国民がこの内容を、都市計画の制度目的、制度趣旨を実現するといえるかどうかを判断する指針として極めて合理的でわかりやすいものでした。 まさに、証人のいうように「誰もが承認できる、幾何学の公理のように自明の基準」でした。しかも、証人はこの指針をもとに、原告主張の個別の都市計画法、都市再開発法違反の論点についても、制度目的にそった解釈論から、その違法、不当であることを極めてわかりやすく、明白に証言しました。この理論は、普遍的な判断指針として今後の都市計画行政を導く理論になりうるものです。
     すなわち、本来土地、建物の所有権という国民の基本的人権である財産権を規制するには、公共の福祉の実現という目的で住民の意見を十分に反映した都市計画法の手続きによってのみ、許されるという制度であるべきです。ところが実際は、逆に大きな財力をもった企業と権力を持った行政が、民間活力の名目で企業の資産力に依拠して都市計画を利用し、力の小さい住民の権利や住環境を破壊するという、格差社会をコンクリートによって具現化するような公共の福祉に反する都市計画事業が横行しています。
     本件再開発事業はまさに、その典型であり、事業地の85%以上を所有する東急グループが世田谷区の区長や担当者個人との密約によって、財力にものを言わせて、都市計画公園の位置を変更し、再開発地区制度の趣旨に反して、再開発要件を満たさない広大な土地の容積率を爆発的に緩和し、再開発制度を濫用して、行政の庇護のもとで、専ら市場原理のままの乱開発を強行しようとするものです。
  4.  今ほど、この法廷での審理について、国民の熱い期待が高まっている時はないといえるでしょう。まさに、本件訴訟は、時を得て判決が言い渡されることになりました。
     関連する再開発組合に対する事業差しとめ訴訟の審理では1審、2審を通して、大気汚染、圧迫感、洪水被害等の権利侵害の実体も全て科学的に立証を尽くしてきており、その書証、証言結果等は本件訴訟にも提出致しました。被告は時機に遅れた主張だと批判していますが、人災としての洪水被害を招き、再開発地域内の住民だけが洪水被害から逃れるため、高い人工地盤を建築する事業が、どうして公共の福祉のための事業といえるのでしょうか?その真実は直視されるべきです。
     原告の陳述にあったように、住民は今現実の権利侵害の苦しみの中にいます。住民が額に汗して重税感に苦しみながら、納税した公金が、このような住環境の破壊事業に「補助金」等の名目で注ぎ込まれようとしています。その金額は、現事業だけでも約300億円周辺関連事業も含めると700億円にのぼります。このような多額の公金支出は年間予算規模約2000億円の世田谷区の財政にとっては大変な金額であり、損失です。現在の百年に一度の不況という経済状況、政治における価値観の変化状況から、将来的な税収の保障もなく、このまま漫然と支出を許すならば、世田谷区の財政の根幹を揺るがしかねない金額です。
     原告や、支援する多くの世田谷区民、国民は本法廷での審理により、司法が、真にあるべき都市計画行政の方向性を示し、誤った法の運用を正すために、被告の公金の支出の違法性、不当性を断罪し、その支出を差し止める判決を下されることを心底熱望しております。

以上

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